S・S・S






「トウマ…」



濡れた黒い瞳が、今度こそ確実にあたしを捉える。

迷いなく、まっすぐに。



(絶体、絶命―――…)



回転しない頭の中で、そんな言葉だけが浮かんで、消えていった。





「あの…?」




なんか、おかしい。

何故だかわからないけど
その瞳に、いつもの鋭さはなくて。


鋭いどころか… 潤んで、妙な色香を漂わせていて。



目を合わせた瞬間、あたしの回路は完全にショートしてしまった。




「あ…の… ちがうの…っ… これには、深い理由…が……」




…あたし、何を喋ってるんだろう。


メドゥーサに見つめられたら、こんな気分なのかな。
(メドゥーサは女だけど。)
自分が何を言ってるのかも、もうわからなかった。




だって


頭を打った筈なのに、“痛い”の一言もなく

トウマが、上半身を起こしてあたしの腕を――…掴んだから。



形勢、逆転。


パシャ、と
水音が、ひとつ 派手に響いて


あたしは、

岩壁とトウマの間に―…閉じ込められた。






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