S・S・S
そう言ったあたしをチラ、と見やって
ため息をつきながら
トウマがサエさんに言った。
「佐伯、…ちょっと、外出ててくんない?」
「それはいいけど… トウマくん。」
「あ?」
「あんまり、サラちゃんをいじめないであげて。交代なら、あたしがやるから。」
「――… それじゃ、意味がない。」
そう小さく呟いたトウマの言葉を認識せず、サエさんは心配そうにこっちを見ながら部屋を出て行った。
―――― “意味がない”?
先に―――…
その発言の真意を確かめれば、良かったのかもしれない。
でも、その時のあたしは
2人きりになったのなら、何よりもまず、確認しておきたいことが他にあって。
そっちを、優先してしまったの。
「――… トウマ……ひとつ、聞いてもいい?」
「なんだ、サラ。」
声が、震える。
きっと
開けてはいけない、パンドラの箱を
あたしは、いま、開けようとしている
「きのうの、こと……何も、覚えて、ないの?」
「きのう……?」
―――… あぁ。やっぱり。この人、何も覚えてないんだ。
いぶかしげにこちらを見るその表情は、
いつもと変わらない“トウマ”で。
昨夜見せたあの優しい眼差しは、どこにも見当たらなかった。