愛しのりんご君。
鼻をかみ終えたらしい坂元が、急にターンするから。
−−…つい、呼び止めてしまった。
で、坂元が振り向いてから我に返って、苦し紛れに言ったのが
「数学の教科書持ってきてる??
俺っ、今日忘れちゃって。」
って。
そんな言葉は嘘で、本当は鞄の中に入ってるし。
……もっとマシな言葉は無かったのか、と
瞬時に後悔した。
だって、もし坂元が数学の教科書を持ってきてなかったら??
今日の俺は教科書を忘れた事になっちゃたわけだから、見せる事も出来ないし。