とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
プロローグ
真夜中だというのにそこは昼間のように明るく、むしろそれよりも騒がしいと思う程の騒音があちこちから聞こえて来た。
だが、ひとたび路地に入ってしまえばそこには暗闇しか無かった。
路地裏を歩きながら男は異世界に迷い込んだのかもしれないという考えが浮かんで、自分におかしくなってひとり笑った。
目の前の暗闇をどんどん進む。2ブロックも歩くと、ただその足音しか聞こえなくなった。
男は黒い外套のような長い上着の裾を揺らしながらふと足を止めた。
深く被ったフードを長い指で少し上げて空を見上げる。
今まで雲に隠れていた月が現れ、ほんの少し辺りが明るくなった。
再び歩き出した時、前方の建物に出来た暗闇が微かにうごめいた。
「いやがった…」
ポツリと呟くように男は言った。
「…違う…あぁ…了解した。」
見えない誰かと話しているのか、独り言なのか…
男はポケットに手を突っ込んだまま立ち止まると風が吹きはじめた。
風は男の回りにぐるぐると渦を作ると次第に勢いを増した。
それを気に留めた様子もなく、ただうごめくそれを睨み付けた。
次の瞬間、闇から何かが男目掛けて飛び出した。
風の渦に当たってそれは弾かれると路地をゴロゴロと転がった。
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