とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
右京が帰国する日、忍は朝から落ち着きが無かった。
家の中をウロウロする娘にさすがの母も「少し座りなさい」と声をかけた。
忍は父と一緒に空港まで迎えに行けば良かったと後悔した。
「電話で到着が少し遅れてるってお父さん言ってたじゃない…」
「そうなんだけどさ…」
また立ち上がって部屋の中を徘徊する忍に母は大きな溜め息をついた。
「ただいま」
「帰って来た!!」
玄関に走って行く忍の姿を見て母は笑いながらゆっくり立ち上がるとその後を追った。
忍は父の後ろに立つ懐かしい恋人に飛び付いた。
「ちょっ!?…のわぁ!」
突然の出来事に対応しきれず尻餅を着く右京の耳元で、忍は「おかえり」と呟いた。
「た…ただいま。
ぷっ…まさか玄関先で押し倒されると思わなかった!」
右京は笑いながら忍の頭を撫でた。
忍は照れくさそうに「ごめん」と言うと手を引いて右京を起こした。
その様子を見て叔父は右京を睨んだ。
「腹が立つから離れろ…」
「叔父さん、ヤキモチ?」
ニヤニヤと笑う右京に叔父のこめかみがピクリと動いた。
右京は「お~怖っ」とおどけて両手を上げた。
靴を脱ぎながら部屋の中が静かな事に気付いた。