とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
右京は出掛ける前に師範に稽古をつけてもらい、夕方になるとシャワーを浴びてから居間に戻った。
夕飯準備をしている叔母の後ろでガシガシとタオルで頭を拭きながら声を掛けた。
「“年越し蕎麦”?」
「そうよ~何年ぶりかしら、年越し蕎麦なんて…
あなた達出掛ける前に少し食べて行きなさい。」
「ああ、もらうよ。
…忍はまだ部屋?」
部屋に入ったきり出てこない忍を右京はちょっと心配した。
彼女は朝から何か様子が変だ。
「気になるなら行ってみたら?
お蕎麦食べる様に言ってちょうだい。」
ペットボトルを手に頷くと、ミネラルウォーターを飲みながら忍の部屋に向かった。
…やっぱり俺何かしたかな…
階段を上がりながら、忍が朝泣いていたのを思い出して不安になった。
あまり深く考えない性格の彼女が、珍しく塞ぎがちになっていたのが気になった。
忍の部屋をノックして扉を開けるとニットのワンピースに着替えた後ろ姿が目に入った。
「忍、夕飯に蕎麦を…」
振り返った忍と目が合い、一瞬ドクンと鼓動が胸を打った。
「“年越し蕎麦”ね?食べてから行こうか~」
「…なにそれ…」
「…やっぱ変かな…」
そう言って鏡に自分の姿を映す忍にゆっくり近付くと、右京は忍の顎を掴んで自分の方に向けた。
「…化粧したの?」
「…似合わない…かな…」
恥ずかしそうな表情の忍に右京は困った様な顔をした。