とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
淀んだ空気を巻き上げるように、洞窟内に暴風が吹き荒れた。
洞内の燭台は倒れ、暗闇に魔女達の動揺した叫び声が微かに聞こえた。
右京は虎太郎が留める隙がない程の素早い動きで洞窟へと体を滑り込ませた。
小さく舌打ちをした虎太郎は「男のそばに居るのがシモンズだ!」とインカムに向かってまくし立てた。
右京は手前から一人、また一人と昏倒して行く。
…これで9人。あと4人…!
普通の人間ならそろそろ暗闇に目が慣れ始めるだろうか。
ふとシモンズと思われる人物がこちらを見ているのに気付いた。
…コイツ、本当に鋭い!
右京は腕を大きく振ってシモンズを突風で吹き飛ばした。
壁に叩き付けられたシモンズが短い呻き声とともにぐったりと崩れ落ちた。
残りの3人を昏倒させ、ふぅと小さく息を吐くと男に近づいた。
焦点の定まらない瞳で右京を見ている。
意識がはっきりしてないようで何かを呟いていた。
顔を近付けてその声に耳を傾ける。
『…蹄が…空から…黒い空が…割れて…使者が…』
…何の使者だ?
インカムのピピッと鳴る音で右京は我に返った。
『クロウ、ヒューガ!カメラを回収して撤収しろ!』
珍しく焦りを感じたアランの声に『了解』と応えると、静かにその場を後にした。