とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
だが、彼は事件から1ヶ月近く経っても未だに悪夢に悩まされていた。
『調子良さそうに見えますね。
もう悪夢は見なくなりましたか?』
『だいぶ良いけど、まだ見るんです…時々。』
『事件に巻き込まれた方にはよくある事です。
焦らずいきましょう。
では、今日はその夢について話していただけますか?』
穏やかにゆっくりした口調でベッカーがそう言うと、幾分和らいだ表情になったグリーンがコクリと頷いた。
『夢はいつもと同じです…。
真っ黒な空が割れるんです。
まるで刃物で切ったように…』
『真っ黒な空って事は夜のような?』
『いや…夜空じゃなくて、真っ黒な…昼なのに真っ黒な空なんだ。
うまく言い表せないんだけど、気味が悪い感じの…。』
『なるほど。…続けて?』
『…で、その向こうから蹄の音が聞こえて来て…
振り返ると後ろに黒いコートの男が居るんです。』
『コートの男は馬に乗ってるんですか?』
『それが乗ってないんです。
確かに蹄の音が聞こえたのに…』
グリーンの話だと、蹄の音は空から聞こえたが、男は自分の真後ろに現れるらしい。
『その男の顔は見えましたか?』
『見えません。フードを深く被ってて、口元しか見えないんです…』
この手の夢は徐々に何か状況が変わって来たりするのだが、グリーンの場合は毎回全く同じ夢だった。