とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
ベッカーは小さく溜め息を付くと歩きながら『刑事さん』と口を開いた。
『どんな人間だろうと、“あんな奴ら”などと言うものじゃありません。
それに犯罪者の目撃情報を妄想と決め付けるのもどうかと思いますよ。』
『ドクターに言われると説得力ありますね~』
頭を掻きながらそう言う刑事にベッカーは穏やかに微笑んだ。
『…とは言っても、自分も非科学的だと思いますけどね。』
ベッカーがそう付け加えると、『なーんだ』と刑事も微笑んだ。
取調室に通され、しばらく待っていると刑事に付き添われて女が現れた。
…アンナ・シモンズ…
色白で綺麗な感じの少女だ。
が、外見と中身は伴うとは限らない。
それはこの仕事をしていて嫌というほど経験済みである。
『こんにちは、シモンズさん。』
『こんにちは、ドクター。』
『先週は体調が悪そうでしたが、今日は大丈夫ですか?』
『はい…あの…色々とご迷惑お掛けしてすみませんでした…』
先週の診療中に彼女は錯乱状態に陥って結局そのまま中断になった。
その前の診療時にも暴れ出し、続行不可能だった。
ベッカーはそれもシモンズの計算された行動ではないかと読んでいた。
だから今回も錯乱状態を装う可能性があるだろう。