とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
『いいんですよ、答えたくないなら、答えたなくて…
では、そのビジョンは何を意味するものだと思いますか?』
『決まってるじゃない。
近い“未来”よ。』
『…暗黒の騎士がやって来ると?』
『そうよ!馬鹿な人間どもを狩りに来るわ!』
ベッカーはゴクリと唾を飲んだ。
この女の心の闇に一瞬触れた気がした。
…シモンズには“殺人衝動”があるのかもしれない…
『シモンズさん。あなたはその騎士の顔を見ましたか?』
『見てない。』
『本当に?』
『馬鹿ね、見れる訳ないじゃない!
顔なんて無いんだから…』
…なんだって?
ベッカーは思わず眉を寄せた。
その様子をシモンズは面白そうに眺めてから突然笑い出した。
『騎士に顔なんて無い!
必要無いのよ。
顔なんて幾らでも手には入るんだから…』
それはどういう意味だろうか…
『…フードで顔を隠しているのは見られたくないからじゃないんですか?』
『…なんですって?』
『だから、隠しているから顔が見えないんでしょう?』
『言ったでしょう!?騎士に顔なんてないって!
隠しているわけじゃないわ!』
…ちょっと待て…話が噛み合わない…
『シモンズさん。あなたが言っている顔のない騎士は“黒いコートの男”じゃないんですか?』
『黒い…コート…?』
微かにシモンズの瞳が振れた。
やはり知っているんだ!
『いややゃぁぁぁぁぁ!!』
錯乱し始めたシモンズを慌て飛び込んで来た警官が取り押さえた。