とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
胸の中の彼女を抱きしめ優しく髪を撫でた。
『…おかえりなさいませ…ウリエル様…』
『いや、帰ったのではない。天界に用があるのだ。
すぐ戻るつもりだがハニエルが来たら取り次いでくれ。』
『かしこまりました。』
バジリスクは異論を唱える事はなく、ウリエルに媚びる事もなかった。
だからこそ従者としてここに置いているのだが…
バジリスクは静かに一歩離れて跪いた。
それを見てウリエルは天を仰いだ。
微かに瞬く無数の星に似た光…
ウリエルは東の空にある一際輝く光を見つめた。
『ラファエル様の所へ行かれるのですね?』
『うむ…野暮用だ。』
バジリスクはそれ以上は何も聞かずに『お気を付けて。』とだけ言って頭を垂れた。
ウリエルはそのままバジリスクに背を向けたまま光を目指して高く舞い上がった。
体を刺すような…いや皮膚を切り裂くような感覚を覚え翼で全身を覆った。
いつも移動中はこんな感覚に悩まされる。
天界の入り口を見上げると水面のように揺らいでいるのが分かった。
ウリエルはそこに漆黒の翼で全身を覆いながら突っ込んだ。
バシャーン!!
と水しぶきを上げながら光の溢れる世界へと飛び出した。
身を数度翻して勢い良く翼を広げ、水を弾き飛ばすように羽ばたいた。