とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
この世界には建物は存在しない。
目立った建物があるとすればそれは神の宮殿で、天使達には空間のみが与えられていた。
それは天界もエデンも同じ…
大きな扉の前で立ち止まるとそっと撫でる様に手を触れた。
──お入り下さい、ウリエル様…──
聞き覚えのある低い声が聞こえ、扉が音を立てて開いた。
『きっと来ると思ってました。』
『久しいな、サリエル。』
『ええ、本当に。』
こじんまりした謁見の間を歩きながら会話を続ける。
『先程ラファエルに会って来たよ。』
『そうですか…では聞いたのですね?』
『ああ。怒鳴りとばしてやった。』
そう言うとサリエルは長く黒い前髪の隙間から見える目を見開いた。
『それは…ラファエル様をですか!?』
『他に誰が居る。』
『さぞ怖がった事でしょう…』
『ああ。怯えて居たよ。
あいつは間違ってる!』
サリエルは困ったように小さく笑うと目を伏せた。
『私もそう思います…』
『どうするつもりだ?
処刑を命じられたのだろう?』
『はい…命に従うべきでしょうが…さすがに躊躇しています。』
『従う必要はない。
彼女はまだ更正出来る。』
『私もそう思いたい…
あの娘の霊魂はまだ堕ちてはいない。』
ウリエルも頷くとサリエルは真っ直ぐ見つめ『ウリエル様』と瞳を潤ませた。