とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
アンナ・シモンズ
真っ白な壁に囲まれた部屋…
清潔感が溢れ、開け放たれ窓から穏やかな風が時折吹き込んで気持ちがいい。
『…ではシモンズさん…』
『アンナでいいです。』
『…アンナ。あなたは悪い夢を見ていたと?』
『はい。夢ではないんですけど、そんな感覚なんです。』
一呼吸置いてアンナは『Dr.ベッカー』と正面に座る彼を真っ直ぐ見つめた。
『これからお話しする事を…真実を聞いて頂けますか?』
『もちろんです。』
『誰にも話した事がないんです。』
『では秘密の話ですね。』
『秘密というか…話す勇気が無かったんです。
実は私…死んだ兄を憎んでました…殺したい程…』
『それは穏やかじゃありませんね…何があったんですか?』
そう言うとアンナは目を閉じて深呼吸をした。
『私…兄に性的暴行を受けていました…』
膝の上で握られていたアンナの拳がカタカタと震えている。
恐らくこの話は真実…
『…大丈夫ですか?無理しなくてもいいですよ?』
そう言うとアンナは『大丈夫』と答えて話を続けた。
彼女の話はとても興味深く、作り話にしては出来過ぎていた。
兄を殺したのはデュラハンだという事…
自分はデュラハンに恩返しをするために生贄を探していた事…
そのデュラハンは実は天使だった事…
そしてその天使が、自分の歪み荒んだ心を浄化するように諭してくれた事…