とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
憎い兄への嫌悪感を世の中の男性へと向け、深い闇の中でもがく“悪夢”をずっと見ていたようだとアンナは語った。
『辛かったでしょう…もっと早く聞けていたら…』
『はい。とても辛かった!
兄が居なくなったのに闇から抜け出せなかったんです…!』
ポロポロと涙を流すアンナは嘘はついていない。
ベッカーは彼女の様子を見てそう確信した。
その証拠に以前診察をしていた時のような違和感を感じなかった。
だが、いささか“天使”に救われたという話は宗教じみている。
『アンナ、君は天使を見たのかい?』
『はい。…素敵な方でした…』
『そうですか…きっと君が本来悪い人間ではないと分かっていたのですね…』
そう微笑んでからベッカーは『そういえば』と思い出したように話を変えた。
『あの事件で複数の人間が“黒いフードの男”を見たと言うのですが、彼についてはどうですか?』
『“黒いフードの男”…』
一瞬目を見開いたアンナはフッと微笑んだ。
『見ました…とても暖かい感じの人でした。』
『彼も天使だと思いますか?』
その質問にアンナは『わかりません』と答えた。
彼女の言う“天使”は“黒いフードの男”じゃないのか…