とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
看護婦は満足そうに微笑んでベッカーに言った。
『ここに来る患者さん達はラッキーですね!
みんないい傾向にありますもの。
それも先生のおかげですよ!』
『ああ…ありがとう。』
そう答えたものの自分はそんな大層な人間ではないと思った。
“あの男”に比べたら…
『さぁ、午後の診察が始まりますよ?Dr.ベッカー。』
『分かってるよ。午後は誰だったかな?』
そうして一瞬止まっていた穏やかな時間が終わり、また忙しい日常の時計が動き出した…
カウンセリングを終えてアンナは少し気分が良くなった。
やはり今までずっと独りで抱え込んでたから、精神的に負担になっていたんだろう。
そのせいで全ての男性が兄と同じように見えてしまったのかもしれない。
弾むように歩きながら、自宅近くの公園に入った。
広場を抜けるのが一番の近道なのだ。
広場の階段に腰を掛けた銀髪の青年が、携帯片手に異国の言葉で談笑する姿が目に入った。
サングラスを掛けていてよく顔が解らないが…
見覚えがあるような気がした。
ふとこちらを見ている気がした。
『居た居た!おい、クロウ!』
『うるせーな!電話中だよ、見て判るだろ!?』
『なんだ、彼女か?代われよ!』
銀髪の青年は黒人と白人の青年とじゃれ合っている。
彼らが笑いながら広場を出て行くのをアンナはしばらく眺めていた。
あんな頭悪そうな知り合いいないか…
そう思い直して広場を反対方向に向かって歩き出した。