とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
大学の敷地に隣接する聖堂はかなり古く、世界遺産にもなっているらしい。
右京は教会の類には興味無かった。
そもそも教会は神に祈りを捧げる以前にキリストを崇める場でもある。
キリストは神でなければ天使でもない。
いわゆる聖人だ。
右京…この場合ウリエルだが、彼から見たらキリストは格下である。
その格下の存在に祈るという行為に何の意味があるのか…
サングラスを押し上げてからコートのポケットに手を突っ込むと、聖堂の外をゆっくり歩いて一周してみる。
『美しいですよね、この聖堂…』
ふいに声を掛けられ右京はその人物に目を向けた。
中年の小綺麗な男性が右京に微笑みかける。
『ええ。近くで見たのは初めてだけど…』
確かにその建築物は美しく、神聖な場として相応しい堂々としたものだ。
『ミサの後はいつもここでこの聖堂を眺めるんですよ。
ほら、何となく心が落ち着きませんか?』
…いや、別に…
…とは言えないので『そうですね』と適当に合わせた。
『私はいつも毎日忙しくてミサなんて前は来る暇が無かったんですよ。
でも患者さんが…ああ私医師なんですがね?
患者さんで信仰に目覚めた方が居ましてね~。
話を聞いてたら触発されまして…』
聞いていないのによく話す人だなと思いながら『へぇ』と相槌を打った。