とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
突然の取材の申し入れに快く応えてくれたのは良かったのだが、司祭の話が物凄く長かったのは誤算だった。
一旦話し出すとその終わりは全く見えず、忍もぐったり気味である。
だがここでご機嫌を損ねる訳にはいかない。
ニックはうんうんと相槌を打ちながら笑顔を崩さない様努力した。
ウンチクなんざ聞かないでも知ってるっつーの!
忍は聖堂内も写真に収めながら時々『神父さま、あれは何ですか?』と助け舟を出してくれたが、ただまた長い話が始まるだけである。
さすがのニックも相槌に疲れて来た頃、やっと本題を切り出した。
『実はね、神父。私ある噂を耳にしまして…』
『噂…ですか…』
『“ヴォイニッチ手稿”ってご存知ですか?
とても歴史的価値のあるものなんですが…』
『…はぁ…』
『噂っていうのは、それの写本がこの聖堂にあるって言うんですよ…』
『もしかして…あれの事かなぁ…』
そう言って司祭は奥の部屋に通してくれた。
古くから殉教者達が使っていたとされる書物庫へと通す。
司祭は『ちょっと待って下さいね』と、本棚を漁りだした。
『蔵書リストがあるんですが…“ヴォイニッチ手稿”は記憶にありません。
ですが題名の無い書物があるんですよ。』