とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
そして彼は本来の在るべき姿を現した。
「天使…なのか…」
そう震えた声で呟く叔父に彼は小さく笑うと首を振った。
「俺は…天使じゃない。
堕天使だよ、叔父さん」
茫然と立ち尽くす叔父をよそに、叔母はゆっくり近付いて優しく微笑んだ。
「どんな姿だろうが右京である事には変わりないわ。
ありがとう。隠さずに居てくれて…」
そう呟くと右京の頭を撫でた。
その仕草は忍を連想させ、心にかかっていた不安と言う名の霧が晴れたようだった。
気持ちが軽くなり、濃いグリーンの瞳を少し細めて微笑んだ。
「俺は右京だけど右京じゃないんだ…」
どこか悲しげな彼に叔父は立ち上がるとこう言った。
「お前は右京だよ。他の何者でもない。
堕天使だろうが悪魔だろうが、俺の知る“右京”に変わりない。」
はっきりと言う叔父の言葉は右京の胸に深く刻まれた。
ありがとう…
緑の瞳を閉じると静かに人間の姿に戻った。
「そうだね…俺は俺だ。」
叔父と叔母は明るく「ああ」と笑ってくれた。
あの日の言葉も…
あの日の笑顔も…
全てが俺の力になるんだ…
バスがガタンと揺れて右京は目を覚ました。
そこであの日の夢を見ていたのだと気付いた。