とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
右京は自分にとって忍がどれだけ大切かは解っているつもりだ。
だが、忍にとって自分の存在がどれだけのものかは解らなかった。
忍から伝わった不安は予想以上のもので、正直困惑した。
それは単に“離れる”事に対する不安ではなく、“消える”事に対する不安だった。
「そばに居て」と繰り返す忍の叫びに「大丈夫」と根拠のない答えを口にする。
もし、本当に自分が消えたら忍はどうなる?
今でさえこの状態なのに…
許されるならずっとそばに居てやりたい…。
右京は自問自答する。
“お前は彼女を危険に晒してまでそばに居たいのか?”
忍を危険に晒したくない。
でも彼女が望むならそばには居たい。
“彼女が望むなら”?
望んでいるのは自分じゃないか!!
俺はただのエゴイストだ…!!
腹が立つ。
自分に…腹が立つ…。
だけど忍への想いはどうやっても抑え切れなかった。
彼女が欲しくて欲しくて…
右京は貪欲に忍への愛を貪る。
そして忍の苦しみですら嬉しくて歓喜する…
そんな感情は、自分の中に“悪魔”が居ると再認識させる。
─駄目だ!抑えろ!
自分の中の“天使”が叫ぶ。
─皇帝に気付かれるぞ!
右京の中の“悪魔”は力が強すぎるのだ。
彼の忍への愛という感情も完全に隠すなんて不可能かもしれない。
だから“天使”は言うのだ。
─愛するのは俺の役目だ
と…。