とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
“歌姫”
それから10日程は叔父の家で過ごした。
帰国する時は見送りに行く約束をするとバスに乗り込んだ。
途中アランから携帯にメールがあり、「戻ったらP2に来て欲しい」と書かれていた。
寮に到着したのは日が傾きかけた頃だった。
右京は一旦戻り荷物を置くと再び出掛けた。
P2に行くとダンとアランが何か話して居るのが目に入った。
オペレーターのロイは軽く右京に手を上げるとPCの画面に視線を戻した。
どうやら誰かと通信しているようだった。
『悪いな…遅くなったよ。』
『帰ったばかりなのにすまないね。
ちょっと気になる噂を耳にしてね。』
『噂?』
『ああ。今ヒューガに確認の為向かってもらってる。』
その噂と言うのは“クー・シー”の目撃された近くにあるバーに現れる歌手の話だった。
なんでもかなりの美女で、その歌声は聞いた人を引きつけて夢中にさせるんだとか…
『ただの人間じゃないのか?』
『だったら問題ないんだけど、あの辺りはローレライ伝説に似た都市伝説があるんだ。』
ローレライ…“岩山の魔女”と言われる妖女の伝説はあまりにも有名だ。
『本来ローレライはスイスに居ると言われるセイレーンの一種だ。
クー・シーの目撃事例があった時期とその歌手がバーに現れた時期も符合する。』
『噂の歌姫がセイレーンだという可能性も捨てきれないってわけか…』
ダンの話に右京は頷きながらそう言った。