とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
その店を出た右京はサムの店へ向かいながらロイに報告した。
ふと前方の暗闇に何かの気配を感じた。
『クー・シーだ。…白い…これが本物か。』
『今までのはフェイクだとするとそれが本体かもしれない。
気をつけろよ。』
『了解』
ロイの言葉に答えると、ポケットから手を出して警戒しながらクー・シーに近付いた。
…マタ オマエカ…
低い声が頭の中に響く。
『…お前クー・シーだろ?精霊の犬らしいじゃなか。』
…ホウ…ヨク分カッタナ…
『歌姫はセイレーンか?』
…ソレハ 自分デ確カメロ。
そう言うとクー・シーは道を開けた。
てっきり襲いかかって来ると思っていた右京はちょっと拍子抜けした顔でクー・シーを見た。
微動だにしない獣を睨みながらゆっくり足を進めた。
ロイが心配して何か言っていたが『問題ない』と答えてサムの店へ向かった。
サムの店に到着するとかなりの人で中の様子が見えない。
掻き分けるように進む途中で『ヒューガもそっちに向かった』と言うロイの声が聞こえた。
客が多い割には客の会話は聞こえず、女の歌声だけが響き渡っていた。
…あれが歌姫か。
ステージに立つ薄いブラウンの長い髪の女が見えた。