とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
女は歌いながらゆっくり客席の間を歩いた。
聞きほれる客達に笑みを向けているのが分かった。
ふと右京に女は目を向けた。
その瞳は赤く妖しい光を放つ。
『目が赤いぞ…どう見ても人間じゃない。』
『危険を感じたら撤退しろよ』
ロイの緊張した声に右京は『ああ』と頷いた。
女は赤い瞳で右京を見据えたままこちらに移動して来た。
透き通る歌声は確かに歌姫と言えた。
噂通りの美女ではあったが客を暗示にかけているのは明らかだった。
女は曲が終わると右京の前で足を止めた。
『…アナタ…私の歌は嫌いかしら?』
『いや、素晴らしい歌声だと思う。歌姫と言われるだけあるよ。』
『…ありがとう…』
言葉とは裏腹に悔しそうな表情の歌姫は、ドレスの裾を翻してステージに戻ると次の曲を歌い始めた。
「右京。大丈夫か?」
「遅かったな。問題ないよ。」
「あれが歌姫か…」
「どう思う?明らかに客に暗示をかけているように見えるんだが…」
「間違いないだろ。人間じゃない。」
しばらくステージの女の様子を観察していたが、2曲目を歌い終えた頃異変が起きた。
歌姫が両手を高く上げると観客が一斉に立ち上がった。
「!?」
「おい、マジかよ…」
立ち上がった観客がこちらを見る姿に虎太郎が悪態をついた。