とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
右京は歌姫を睨んだまま虎太郎に話し掛けた。
「虎太郎、暗示を解け。」
「オーケー!」
一瞬空気が揺らいだかと思うと、巻き上がる風に客達は足止めた。
次の瞬間天井の電気が次々と割れ、店内は真っ暗になった。
それに驚いた観客は一斉に我に帰った。
客のどよめく声で暗示が解けたのが分かった。
その隙に右京は体勢を低くしてステージに突っ走った。
驚いた歌姫が言葉を発する前に右京は彼女の胸に腕を突き出し、ステージ裏まで吹き飛ばした。
店内の虎太郎は大きく手を打つと、客達に暗示をかけ直した。
『よし、みんな!大人しく家に帰れ!』
その声に客達は静かにゾロゾロと出口に向かった。
右京はそれを確認すると立ち上がろうとする歌姫に近付いた。
『さて、話をしようじゃないか。』
『なっ何者なの!?』
『ただのサイキッカーだよ』
『ふざけないで!』
『ふざけちゃいないさ。』
そう言うと右京は歌姫を見下ろして笑った。
『お前、精霊だろ?名前は?』
『…クソ食らえよ!』
歌姫の態度に右京は溜め息をつくと『アラン』とP2にいるボスに話し掛けた。
『歌姫がかわいくない。俺、この手の女嫌いなんだ。』
『クロウ、女性には優しくしないとダメじゃないか。』
『“女性”だって?虫ずが走るぜ…』
『なっ…なんですって!?』
歌姫は怒りをあわらにしながら真っ赤な瞳を見開いた。