とある堕天使のモノガタリⅡ ~MIDRASH~


女は右京を見上げて瞳を潤ませた。


その様子を冷たく見下ろしたまま右京は翼をしまうと、転がっていた椅子にドカッと座った。


『…私はセイレーンのリサよ…』

『リサか。で?誰かの指図を受けての愚行か?』

『冗談じゃないわ!私は誰の指図も受けない!』

『ほぉ…じゃあ何故人間を惑わす?』

『別に惑わすつもりはないわ…

ただ、この近付くに歌姫が居るって聞いて見に来たのよ…』


リサはそう言ってポツリポツリと話し出した。


ここへ来たのは数十年前らしかった。

同時この辺りに歌姫と評判の女性がいた。

歌は確かに上手いものの容姿は“姫”というには程遠いその女性にリサは落胆した。


“私の方が歌姫にふさわしい”


そう考えたリサは夜になると人気のない橋の上でこっそり歌うようになった。

それがこの街の疑似ローレライ伝説になった。


『そんなある日、サムに会ったの。』


このバーのオーナーだった彼は、リサをセイレーンだとは知らずに歌姫としてスカウトした。

サムはとても優しく、リサは次第に彼に惹かれていったのだった。


『それなのに…』


悔しそうに顔を歪めるリサに虎太郎は同情した様に声をかけた。


『振られたってワケか…』

『はぁ!?私が振られるワケないじゃない!』

『…じゃあ何なんだよ…』

『たった40年でまるで老人よ!』

『『…』』


そこまで言うとリサは突然泣き出した。



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