とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
いくら木刀を振るっても雑念が払えない。
「っんで…私なのよ…」
私には右京しかいないのに…
「…右京…」
忍はペタリと床に座り込んで膝を抱えた。
「忍?」
「お母さん…」
忍の母は忍の隣に腰を下ろした。
「荒れてるのね。」
「…だめなんだ…どうしても辛くて…」
「そうね…彼もきっと同じよ?」
「…そう思う?」
「ええ。」
母はそう言って優しく微笑むとコツンと頭をくっつけた。
「ひとりで溜め込むから辛いのよ?
お母さんで良ければ話聞くから!」
「ありがとう…」
ちょっとだけ気持ちが軽くなった。
「そうやって辛くなると右京も木刀振ってたわ。」
「右京も同じ気持ちだったのかな…」
「聞いてみたら?」
「そうだね…今度聞いてみるよ。」
「さぁ、ご飯食べちゃいなさい!お腹空いてるでしょ?」
そう言うと母は忍の手を引いて立ち上がった。
今まで離れていたから母親の温かさを忘れていたのかもしれない。
「お母さん。また話聞いてね。」
「もちろん。あなたは独りじゃないのよ?
もっと吐き出しなさい!」
その言葉が忍の胸に残った。
“私は独りじゃない”
確認するように心の中で繰り返すと忍はやっと笑顔を見せた。
その様子に母はホッと安堵したのだった。