とある堕天使のモノガタリⅡ
~MIDRASH~
いきなり立ち上がった堤に驚いて忍は彼を見つめた。
「忍に手を出してみろ…ただじゃ置かねーから…」
「…あんた海外に居るんだろ?仮に俺が手を出しても何も出来ないじゃないか…」
「…そう思うならやってみろよ…」
凄みのある低い声に思わず震えた。
だが相手は遠く離れた場所に居る。
堤はそっと手を忍の頬へ伸ばした。
あと少しで忍に触れるんじゃないかと思ったその時、カウンターの上のグラスがパリンッ!と割れた。
「失礼しました。」
そう言って忍と堤の間に小柄な黒髪の青年が立ちはだかった。
「…お前の行動は手に取る様に判るぜ?」
「…ウソをつくな!偶然だろ?」
「…“潤”」
そう電話の相手が言うと黒髪の青年は、突然腕を突き出して堤の喉を掴んだ。
慌てる忍とジンヤが「おい、潤!」と叫ぶが青年は聞こえないように微動だにしなかった。
「…そいつは俺の犬だ。…気を付けないと噛みつくぜ?
理解したか?」
堤がコクコクと頷くと電話の相手はフン!鼻をならした。
「離せ」
その言葉と同時に青年は堤を解放した。
「お前、俺をなめんなよ?」
そう言うと「忍にかわれ」と言われ携帯を忍に渡した。
「右京!何考えてんのよ!」
堤は忍が電話に向かってそう叫ぶのを見てゾッとした。
…本当に見てるのか?
青年は堤の手を引いて立たせるとにっこり笑った。