シュガーレス・キス
『やっぱり私は幽霊なんだなー』
「………」
『って、思っただけだよ』
ほら、と指差した先には俺の友達。
『皆気づいていない。きっと今だって悠那くんが本当に電話してると思ってる』
彼らを見つめたあとハルは空を飛び回る。
気持ちよさそうに辺りを浮いているハルは、まるでどこかに行ってしまいそうな小鳥みたいだった。
『私のことは気にしなくていいから、友達のところに戻りなよ』
「いい」
そう言って、ハルを見上げた。
「チャイム鳴るまで、ハルといる」
キョトンとするハルは、徐々に頬を染めて、でも少し嬉しそうにはにかんだ。
そんなハルをみたら、なんだか無償に恥ずかしくなった。
『悠那くん』
「……ん?」
『ありがとう』
―――もしもの話、こいつが幽霊じゃなかったら。ハルじゃなかったら。普通に人間だったら。
出逢わなかったら。
俺はきっと今この瞬間も、そしてこれからも、適当に毎日を過ごしていただろう。
教師に相手をされないから、授業がつまんないから、どうでもいい理由をつけてはサボり続けたかもしれない。馬鹿みたいにはしゃいだかもしれない。
でもそれを変えてくれたのはきっと今の彼女がいたからだと思う。
サボろうものなら無理矢理引っ張ったり、脅してきたり。
授業に出てもついて行けない内容の所をやっていれば、こっそりハルが教えてくれて。
それが何よりも俺にとって心の救いだったことを知ったら、お前は笑うだろうか。
それでもいいけれど。
ハルが笑顔を絶やさないのならばどんなことでも笑えばいいよ。
そう思えるようになるのは、もうちょっと先の話。