シュガーレス・キス


『やっぱり私は幽霊なんだなー』

「………」

『って、思っただけだよ』


ほら、と指差した先には俺の友達。


『皆気づいていない。きっと今だって悠那くんが本当に電話してると思ってる』


彼らを見つめたあとハルは空を飛び回る。


気持ちよさそうに辺りを浮いているハルは、まるでどこかに行ってしまいそうな小鳥みたいだった。


『私のことは気にしなくていいから、友達のところに戻りなよ』

「いい」



そう言って、ハルを見上げた。





「チャイム鳴るまで、ハルといる」


キョトンとするハルは、徐々に頬を染めて、でも少し嬉しそうにはにかんだ。


そんなハルをみたら、なんだか無償に恥ずかしくなった。



『悠那くん』

「……ん?」

『ありがとう』






―――もしもの話、こいつが幽霊じゃなかったら。ハルじゃなかったら。普通に人間だったら。

出逢わなかったら。


俺はきっと今この瞬間も、そしてこれからも、適当に毎日を過ごしていただろう。


教師に相手をされないから、授業がつまんないから、どうでもいい理由をつけてはサボり続けたかもしれない。馬鹿みたいにはしゃいだかもしれない。



でもそれを変えてくれたのはきっと今の彼女がいたからだと思う。


サボろうものなら無理矢理引っ張ったり、脅してきたり。

授業に出てもついて行けない内容の所をやっていれば、こっそりハルが教えてくれて。


それが何よりも俺にとって心の救いだったことを知ったら、お前は笑うだろうか。

それでもいいけれど。

ハルが笑顔を絶やさないのならばどんなことでも笑えばいいよ。




そう思えるようになるのは、もうちょっと先の話。
< 17 / 49 >

この作品をシェア

pagetop