君の世界で私は、
私はこの瞬間が、大嫌いだ。
「おはよう」
優しく柔らかく微笑んだ真紘は、波紋のように広がる女の子たちの黄色い声の中でもよく通る甘めの声を発した。
キャーだとかカッコいいだとか、とにかく真紘の好きそうな言葉を並べる彼女たちは花に集まる蝶のように真紘の後を追う。私がいること、気付いてないんじゃないかってくらいの熱気になんだかクラリとした。
私は預かった真紘の鞄の持ち手を握り締める。
真紘が真紘じゃなくなるこの瞬間が、大嫌い。
いつだったか、真紘になんでこんな風に王子様気取るのか聞いたことがある。
ヤツは面倒なことが嫌いだから不思議でしょうがなかったから。そしたら、「それが一番俺に合ったキャラかな、って」とあまりにも軽すぎる答えが返ってきて。ワイルド系ではなく優しい王子様系の容姿だと誰よりもわかった上での答えって感じだった。
小さくため息をついた私はそっと真紘を盗み見た。
愛想よく女の子たちにに笑顔振りまいて、後ろから追い越してくクラスの男子にも軽く片手を上げて挨拶する。
どうやったらこんな風に人と上手く付き合えるのか私はさっぱりわからなかった。ここまでモテたら同性から嫌われても良さそうなのに。