永遠の色を重ねて




 見えなくなるまで手を振る病院関係者に、土岐ハツ江は車内からもう一度頭を下げた。


──温かい人達に囲まれて、わたし、幸せだったわ。


 寂しいけれど。腕に抱いた一枚の絵が、入院中のたくさんの思い出が、この先もずっと元気をくれる気がしていたから。


「母さん。母さんが入ることになったホームなんだけど…」


「…ええ。」


 明日には隣県の老人ホームに入ることになっている。もう迷いはない。


 けれども、息子の口から出たのは予想だにしなかった言葉だった。


「それがさ。病院の人の紹介で、ほら、近所に出来た新しい所。そこに入れてもらえることになったんだよ!」


「………え?」


 驚きのあまり、年甲斐もなく素っ頓狂な声を上げてしまった。


──病院の、紹介…。


 ふと手元の包みを見てみた。絵の下から、一通の封筒が覗いている。


恐る恐る、中身を広げて読んだ。



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