永遠の色を重ねて
ふと、時計を見た香耶乃さんが慌てて立ち上がりました。
「ぅおっと!もう幼稚園行く時間だわ!慎吾、大人しくしてなさいね!綾瀬さん、主人のこと頼みます!」
返事をする間もなく、香耶乃さんは風の如く去っていきました。賑やかな方です。
「お子さんを迎えに行かれるんでしたっけ?」
「ええ。今年長でね、これが可愛いんすよ。」
どんなに若くとも、お子さんがいらっしゃる方は皆さん『親』の顔をしています。
温かく、強く、優しい表情。
ですが、一瞬後その表情には影が落ちました。
「…紅松さん?」
少しの沈黙を置いて、紅松さんは独り言のようにポツリと呟きました。
「おれ、情けないよなぁ…」
その意味が理解出来ず、私は首を傾げました。
いったい何が、情けないというのでしょう?