永遠の色を重ねて
その方の病室に入る前、婦長さんは私に言いました。
「この個室に入院されてる光崎(コウサキ)さんて方ね、病院のみんなから゙花咲か爺さん゙と呼ばれてるのよ。」
「花咲か爺さん…ですか?」
花咲か爺さんといえば灰を撒いて木に花を咲かせたという、昔話に出てくるお爺さんです。いったいどういうことなんでしょう。
「ふふ、入ってみれば分かるわ。さあ行きましょう。」
首を傾げる私をさておき、婦長さんはノックをしてから扉を開けました。
「光崎さん。今日から新しい看護士さんが付くことになりましたよ。紹介しますね。」
その言葉に、挨拶をしなければと慌てて病室に入りました。
──私はそこで思わず息を呑んだのです。
ポツンと一つだけ置かれたベッドに腰掛けるご老人。
その周りには色とりどりの花束が、窓辺には紙の上に敷き詰められた様々な花びらが、ベッド脇にはたくさんの洋書が積まれていました。