永遠の色を重ねて
それからおよそ一ヶ月の間、私は引き継ぎや事務、そして患者さん達のケアに尽力しました。
「綾瀬さん。どうもありがとう。」
ふいに言われたそんな一言に、涙が溢れそうにもなって。その度に思います。
──看護士になって良かった。ここで働けて良かった。
たった一年の間に、私はどれだけ多くのものを貰ってきたのでしょう。
優しい先輩方に仕事を教えて頂き、患者さんの笑顔に触れ、そして不思議なご老人に出逢いました。
"花咲爺さん"と呼ばれ、押し花を用いて素敵な絵を描くその人。困ったとき、何度も何度も背中を押して頂きました。
私はこれまでの事を絶対に忘れません。思い出ではなく、記憶として在り続けるでしょう。
「──短い間でしたが、ありがとうございました。」
とうとう訪れた別れの日。先輩方や患者さん達、さらには病院長までが集まり、見送って下さいました。
「元気でね。」
「はい。」
手渡された花束を抱いて、私は一礼をしました。
「あ、綾瀬さん。これも。」
「?」
婦長さんが差し出したのは、A4サイズの包みでした。