春・紅茶・春
次の日。
私は帰りに図書室に寄った。

幼い頃から本が好きだった私は、本の中の主人公が図書室で勉強するシーンに少し憧れていたのだ。

図書室で1人、勉強している主人公。
そして、そんな主人公に話しかける男の子。
次第に2人の中は深まり、付き合い始める…。

なんていう本の内容を思い出し、心の中で少し期待しながら図書室のドアを開けた。

誰もいない。

やっぱり、現実はこんなもんか…。

「邪魔。」

「ぎゃあっ!!」

背後からの声にビックリした私は、思わず叫んでしまった。

「ごっ…ごめんなさい!」

慌てて振り返ると、黒木くんがうるさそうな顔をして立っていた。

「どいて。」

心底、迷惑そうに言う。

「あっ!ごめんね。」

塞いでいた入り口を退くと、黒木くんはスタスタの中に入っていった。

ど…どうしよ。
図書室で2人きりなんて、気まずい。
かなり気まずい。
だからって…このまま帰るのは、あからさまに「嫌だ」って言ってるようなもんだし…。

「ねぇ。」

「はいぃ!?」

黒木くんの急な問いかけに、声が裏返る。

「ドア閉めてくんないかな?」

「えっ。あっ。ごめんね。」

アタフタしながらドアを閉めてから気がついた。

私…図書室に入っちゃった…。

仕方ない。適当に時間を過ごしたら、さっさと帰ろう。

そう思いながら、椅子に座って教科書を出した。

黒木くんは、窓際に立って本を読んでいる。

髪が西日に当たって、黒くキラキラしてた。

やっぱりキレイだなぁ。
そういえば、いつも何の本読んでるのかな?
て、いうか…転校してきて、すぐテストなのに余裕だなぁ。
私なんて、こんなに切羽詰まってるのに…。

なんて事を考えているうちに、時間はあっという間に過ぎてしまった。

勉強が進まなかったのは言うまでもない。
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