おたく王子
なくし物
席替えをしてから一週間が過ぎたある朝。
「おはよう、朝日ちゃん」
席に着いてすぐ、野上眞子が声をかけてきた。
「おはよう野上さん」
「朝日ちゃん。野上さんじゃなくって。眞子でいいって言ったでしょ」
拗ねたように口を尖らせる眞子に苦笑いして、朝日は訂正する。
「ごめんごめん。眞子ちゃんね」
あの席替えの日以来、眞子はすっかり朝日を慕っていた。
朝日の方も、おっとりと優しくて真面目な眞子には好感を持ち、今では一緒に昼食を取る仲だ。
「・・・ねえ、眞子ちゃん」
「ん?どうしたの?」
口元に手のひらを寄せて声を潜める朝日に、眞子はきょとんとしている。
朝日は後ろを何度も振り返って何かを確認しながら眞子の耳に口を寄せた。
「あのさ・・・もう一回席替えってできない?」 「え?」
朝日の言葉に眞子は目を丸くした。
朝日ちゃん・・・どうしてそんなことを言うんだろう?
「で・・・でも・・・。この間したばっかりだから・・・」