おたく王子
「げっ!」
朝日は顔を引きつらせる。
目の前に大嫌いな人物が自分と同じように座り込んでいた。
「"げっ"てなんですか、"げっ"て。いきなりぶつかって来たのはあなたでしょ。イタタ・・・」
香山是人は朝日と同じように臀部を押さえている。
こちらも尻餅をついたらしい。
「ごめん、わざとじゃ・・・」
朝日は謝りながら是人に駆け寄ろうとして気がついた。
こんなことしてる場合じゃなかった。
ローファー!
ローファーを取り返さないと!
「ごめん!今アンタに構ってられない!」
ドンッ!
朝日は立ち上がりかけた是人を突き飛ばした。
是人はバランスを崩して再び尻餅を付く。
「イタッ!」
悲鳴をあげる是人を振り返ることもなく、朝日は猛スピードで廊下を駆け抜けていった。
玄関には是人だけがぽつんと残された。
是人はゆっくり体を起こしながら改めて思う。
(・・・騒がしい人)
ふぅ、とため息をつく。
隣の席になって一週間。 僕のことをオタクだオタクだと騒ぎ立てる斎藤朝日。
正直、毎日うるさくてたまらない。
でも・・・。
「・・・あ」
ふと、ポケットに手を入れて気がついた。
「忘れてた・・・」