おたく王子



―――放課後の教室だった。


眞子が忘れ物をして教室に戻って来ると、ちょうど是人が一人で残っていた。

今から帰るところだったようで、眞子が教室に入ってすぐ、是人は鞄を肩に掛けて席から立った。


あ・・・待って!』


眞子は反射的に呼び止めてしまった。

是人は突然大きな声を出されたことに驚いた表情で眞子を見た。


え・・・ええと、ええと、どうしよう・・・!?


クラス委員として、是人ときちんと話がしたいとは思っていた。
ついにその機会がやってきて願ったり叶ったりだが、心の準備ができていない。

一体なんと言ってなにを尋ねたらいいのか。

眞子は混乱する思考回路からなんとか言葉を紡ぎだそうとした。


『あの、ええと・・・是人くんって、一人が好きなの?』

『・・・』


眞子が必死に絞り出した苦し紛れの問いに、是人は答えなかった。


ま、まずかったかな・・・?
傷つけちゃったかも・・・。


眞子は内心、焦っていた。
自分はクラス委員なのだから、クラスメイトのためになにかしてあげたいと思った。


けれど、なにかしてあげるどころか傷つけてしまうだなんて、クラス委員失格だ・・・。


眞子は自己嫌悪しながら、変なことを聞いてしまってごめんなさい、と謝ろうと口を開きかけた。


しかし、それよりも数秒早く、是人が声を発した。


『・・・僕は嫌いですよ。一人は』

『え?』


思わぬ答えが返ってきたことに眞子は驚いた。


是人くん、一人が好きなわけじゃないの?

なら、どうして・・・?


戸惑いの色を隠せない眞子の顔を見据えながら、是人は続けた。


『一人は誰にとっても嫌なものです。・・・だから、他の誰も一人にしたくないんです』


それだけ言い終えると、是人は踵を返してスタスタと教室を出ていった。


是人が行ってしまっても、眞子はしばらくその場に立ち尽くしていた。

是人の言葉を何度も何度も頭の中で反芻する。




『他の誰も一人にしたくないんです』――――。




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