おたく王子
「はい。なんですか?」
是人がうんざりした声音で答える。
さっきから不自然にチラチラ目を向けてきたり、名前を呼んできたり、是人は朝日が自分をからかっているのだと思っていた。
「え・・・えっとさ・・・」
しかし、朝日の方は必死だった。
一応、助けてもらったんだし・・・常識人としてお礼はきちんと言いたいじゃない?
で、も。
相手があの是人って言うのが・・・。
毎日口喧嘩ばっかりなのに、今さら感謝の言葉だなんて、蕁麻疹出そう・・・!
でも、やっぱりお礼はちゃんと言わないと・・・!
あー!でもでもでも・・・!
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
朝日はお礼を言おうか言わまいか葛藤していた。
振り子の針がほんの少し、お礼を言う側に傾いた時、朝日は勇気を出して口を開いた。
「え、と・・・。そのぉ、昨日は―――」
ガラッ。
「おー!全員席着いてるなー!授業始めるぞー!」
「きりーつ、礼ー」
日直の生徒が号令をかける。
「着席ーっ」
ガクッ・・・。
朝日は椅子に腰を下ろすと同時に机にへたりこんだ。
そして心の中で悪態をつく。
先生の馬鹿!
タイミング悪いっての!
せっかく言おうとしてたのに台無しじゃないっ!
サイアクッ!
「斎藤さん、今なに言いかけたんですか?」
「えっ・・・」
是人が不審な人間を見るような目を向けてくる。