おたく王子
二人が声のしたほうに目を向けると、教室の入り口に他のクラスの男子が立っていた。
背がスラリと高く、爽やかでモテそうな雰囲気の男子だ。
手になにかを大事そうに抱えている。
「ああ、田中先輩。ありがとうございます」
言いながら是人は席を立ち、田中先輩と呼ばれた男の元へ行ってしまった。
「・・・」
ヒュルルルル・・・。
寂しい木枯らしの音が聞こえた気がした。
一人残された朝日はクッキーを後ろ手に持ったまま固まっていた。
「あ、朝日ちゃん、大丈夫だよ!多分すぐ戻って来るよ!」
密かに隣で傍観していた眞子が朝日に声をかける。
「うん・・・」
朝日が眞子の励ましにため息混じりに頷いた。
なんでこうタイミングが悪いのか・・・。
せっかく渡せそうだったのに・・・。
「で。なんでしたっけ?斎藤さん」
眞子が言った通りすぐに是人は戻ってきた。
だが、席に座りながら切り出した是人の口調は、先ほどと一変して弾んでいる。
是人は机の上に教科書ほどの大きさの包みを置いた。
「・・・?」
朝日は同じ姿勢のまま、ふんふん鼻唄を歌いながら包みを開けている是人を凝視した。
なんか是人、ご機嫌・・・?
淡々として落ち着いている是人のいつもとは違う雰囲気に、朝日は違和感があり動けなかった。
やがて包みを開け終えた是人は、中から出てきた本のような物を震える手で取り上げて声を上げた。
「うわ!すごい!初回特典のレアカード付きじゃないですか!」