おたく王子
昼休み。
「キモい!」
朝日はきっぱりと言い切った。
「なに!?なんなのさっきの言い草!?"汚い手で触らないでください"ー!?絶対私より是人の手の方が汚いわよ!」
朝日が弁当を食べながらぶちまける是人への不満を、眞子は困った顔で聞いていた。
しばらくして怒り疲れた朝日が口を休めると、眞子は少しホッとして、
「あ、朝日ちゃん、これあげるから落ち着いて」
と朝日の弁当箱に卵焼きを入れてきた。
鮮やかな黄色でふわふわで、まるで料理本から出てきたような綺麗な卵焼きだった。
「あ、卵・・・!眞子ちゃんありがと」
大好きな卵焼きをもらい、朝日は一時的に是人への怒りを忘れた。
眞子に礼を言うとすぐに卵焼きを口に放り込む。
「おいしい・・・!眞子ちゃんのママすごいね!」
率直に感想を言う朝日に、眞子は少し赤くなりながら呟いた。
「それ私が作ったんだ・・・」
「ええ!?眞子ちゃんの手作り!?」
「うん・・・」
「もしかしてお弁当も!?」
朝日が尋ねると眞子は小さく頷いた。
「眞子ちゃん、貴方はすごいよ」
朝日は心底眞子に感心していた。
クラス委員も任されるしっかり者で、料理もできて、優しくて。
嫁に欲しいぐらいだ。
(それに比べて私は・・・)
眞子すごさに自分を引き合いに出して朝日は落ち込みそうになる。
しかし、後ろ向きになる前に眞子がポンと朝日の肩を叩いた。
「すごいのは朝日ちゃんだよ」
「え?」
顔を上げた朝日に、さらに眞子は続けた。
「朝日ちゃんはいつも明るいし優しいし運動もできるし、私が困ってたら助けてくれたし。それに・・・」
「・・・それに?」
眞子は言葉を切って一呼吸置くとにっこり微笑んで言った。
「是人くんのために一生懸命クッキー作ったじゃない」
「眞子ちゃん・・・」
朝日は眞子の顔を見つめた。