おたく王子
「アンタがアイツの何を知ってるのかは知らないけどね!アイツは・・・是人は間抜けなんかじゃないわよっ!!!」
アイツは確かにオタクだけど!
時々本当に引く時もあるけど!
私を助けてくれたんだから!
あんななよっちいくせに!
怒る朝日に一瞬怯んだ緑だったが、すぐにさっきまでのいやらしい笑みを浮かべた。
面白いオモチャでも見つけたような顔で、ゆっくり朝日の顔に手を伸ばす。
「朝日ちん、もしかしてアイツに惚れてるとかぁ!?」
「そんなんじゃないわよっ!」
朝日は少し頬を染めながら叫んだ。
緑はキャハハハ、と歯を見せて笑いながらその手が朝日の頬に触れる。
「や・・・!」
「こりゃあいいや!オタクくんにもやっと春が来たってね!にゃはは!ウケる!まじウケる!」
言いながら緑は朝日の頬を撫で上げる。
朝日の身体に悪寒が走った。
「触んないでっ!!!」
朝日は顔を振って緑の手を払い退けた。
そしてすばやく口を開けると、指先に噛みついた。
「痛っ!!!」
緑は慌てて立ち上がって片手で指先を押さえた。
つぅ、っと指の肉の隙間から赤い血が伝う。
ポタッ。
小さな赤の滴が床に落ちた。
「・・・・」
緑は黙って指先をじっと見つめた。
表情がない。
虚ろな瞳は血液だけを凝視している。
余程痛かったのか立ち尽くしている緑を見て、朝日はやりすぎたかもしれないと後悔した。
血が出るほど強く噛んだのは悪かったかもしれない。
そう思い、謝ろうと口を開いた。
「あの、ごめ・・―――」
ガシャーンッ!!!!!