おたく王子
席替


「じゃあ、各自いま引いたクジの番号の席に移動してくださーい」


クラス委員の野上眞子が教壇に立ちながら大声で呼びかけた。

生徒達は皆、久々の席替えに興奮しており教室中が騒がしい。


「みんな聞いてー!」


ざわめきに飲まれ、懸命に叫ぶ眞子の声はあっけなく掻き消されてしまう。


しかし眞子はクラス委員としてみんなをまとめる責任を果たそうと、負けじと声を張り上げる。


「みんな!今から新しい席に・・・――」


「野上さん」


眞子は肩を叩かれてハッとした。

見ると隣に一人の女子生徒が立っていた。

元気なショートカットに意志の強そうな大きな瞳。
大人しい眞子とは対照的な、活発なクラスメイト。


「朝日ちゃん・・・?」


眞子は目をぱちくりさせながら朝日を見つめた。

朝日とは今年初めて同じクラスになり、お互いに顔と名前こそ知っているものの、ほとんど会話したことはなかった。

そんなただのクラスメイトが突然自分の横に立ったことを眞子は不思議に思った。
ぽかんとしている眞子に朝日はニコリと微笑みを向ける。

そして次の瞬間、勢いよく拳を振り上げた。



ダアアアアアンッ!!



「・・・・・」



突然の轟音にうるさかった教室は一気に静まり返った。

まるで時間が止まってしまったような教室に、


「みんな。クラス委員が話してるよ」


と朝日の声が響いた。

朝日の呼びかけによって生徒達の目線が一斉に眞子に注がれる。


「あ・・・みんな。今から新しい席に移動してください」


はーい、とクラスメイト達が適当な返事をし、移動し始めた。


机や椅子を動かす音で再び教室中がうるさくなる。


朝日は教卓を叩きつけた拳をさすりながら、席に戻ろうとする。

それを眞子が呼び止めた。


「朝日ちゃん」


「ん?」


朝日が振り返ると眞子は満面の笑みを湛えていた。



「ありがとう」



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