おたく王子
「はいは~い!ラブラブなのはわかったからね!終わりにしてね~」
今まで大人しく朝日と是人の会話を聞いていた緑が口を挟んだ。
言われて二人は閉口する。
「・・・・あなたの目的は何ですか?夏井さん」
室内が静寂に包まれた。
緑はスッと是人の側まで近づいた。
至近距離で是人に微笑みかける。
「・・・・」
何も言わない是人に、緑が笑ったまま言った。
「さっき、朝日ちんには言ったんだけどさ。俺ね、君たちのこと虐めてほしいって、頼まれてるの」
「虐める・・・?」
是人は眉を寄せた。
緑がなにをするつもりなのかと警戒する。
そんな是人の額を指差して緑が言った。
「だからさ。上げてみせてよ・・・前髪」
「!」
是人は目を見開いた。
サッと手で前髪を押さえる。
「別に身体的に痛めつけるだけが虐めるじゃないじゃん?俺、どっちかって言うと精神的に虐めるのが好きなんだよね~」
言いながら緑はケラケラ笑う。
「前髪・・・?」
朝日は意味がわからずに呟いた。
前髪がどうしたというのだろう。
是人は確かにいつも前髪が長くて目元まで隠れてるけど、捲ったところでどうもならないでしょ。
緑のジョークだろうか・・・?
朝日はそう思ったが、是人の様子を見てその思いは消えた。
是人・・・・??
朝日の視線の先で、是人はガタガタと体を震わせていた。
前髪をしっかり手で押さえながら、顔面蒼白だ。
明らかにいつもの是人とは様子が違う。
「是人・・・」
朝日は是人の名前を呼んだ。
しかし、是人は気づいているのかいないのか、同じ体勢で震え続けている。