雪の降る日に
「ありゃ。七瀬じゃんか」
佐原はこそっとあいつの名を口にした。
「…あぁ」
俺は生返事だった。名を聞くと、どこかがサワサワと騒ぐ。
七瀬は俺に気付く様子もなく目の前を通り過ぎて行った。
「あいつ本当かわいくなったよなぁ」
佐原が壁に寄りかかり言った。
「何?村上見とれてた?」
バッと佐原を見るとニヤニヤと笑っていた。
「なっ…!─んなわけねぇだろっ」
俺はロッカーを開け、教科書を探す振りをして頭を突っ込み、動揺を隠した。
「まぁでも、見とれるのもわかるぜ?
あいつ、中学ん時と全然違うしなぁ」
俺は教科書を取り出し、ロッカーをパタンと閉めた。
「まぁ、な…」