彼に恋した夏(方言企画大阪弁編)
玄関の前には
赤い車が待っていた。


『お待たせしました。』

運転席のおばさんが
俺に気付いて微笑む。


『あれぇ?太一は見送りけぇへんのー?』


俺は
首を傾げてる小春ちゃんの横に
乗り込んだ。


『部屋で挨拶してきたよ』

『ふ―ん?』


多分…
泣いてるのをおばさんや小春ちゃんには知られたくないんだろう…




エンジン音と共に走り出す車。


小さくなる家を
ミラー越しに見た。


小春ちゃんと出会った場所。

夢を見つけた場所…


もうここには戻ってこないんだ。


家が見えなくなって
別れの現実感が押し寄せてきた。


俺は隣に座る小春ちゃんの肩にもたれた。


小春ちゃんは
少しびっくりしたように
俺を見た。


この小さな肩にも…

もうしばらく会えないんだ


こんな風にできるのも
あと少し…


俺の気持ちを感じたのか
小春ちゃんは優しく
俺の頭を撫でた。





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