あたしの前だけ俺様王子☆
「ちょ、ちょっと!」
あたしは出て行くアイツを追いかけて廊下に出た。
アイツはあたしの声が聞こえたのか、立ち止まって振り返る。
誰もいない廊下に、今はあたしとアイツの二人だけ。
「…まだなんか文句あんの?」
早くしろ、とでも言いたそうな表情。
その表情に少しムッとしたあたしは、心なしか声が大きくなった。
「な、なんで教室にいたの?
みんな帰ったし、特に学校に用事も無いみたいなのに…」
そう言ったとき、アイツは少しびっくりした顔をした。
多分、あたしに文句でも言われるだろうって思ってたんだ。
少しだけ、沈黙が流れる。
すると、一瞬だけ。
一瞬だけ、アイツが笑った。
いつものムカつく笑みじゃなくて。
いつか見た優しい自然な笑顔。
「……秘密」
それだけ言って、アイツは静かな廊下を歩いて行った。
あたしは一人歩くアイツの後ろ姿をずっと見続けていた。
長い静かな廊下には、アイツの足音とあたしの鼓動が響いている気がした。