キミといたくて ~AYA~
すぐにまた笑ってくれたけど、一瞬だけ見えたびっくりした表情を、あたしは見逃さなかった。
“観たがってたMonsterのDVD、そんとき貸すよ”
平静を装っていた。心の中で後悔しながら。
やっぱ、もう少し後にしたほうがよかった。また「ちゃん付け」に戻そうかな、と。
そう考える気持ちは、多分、表情にも出ていたと思う。
けれどそのとき、真由美はニコッと微笑んで、こう言ってくれたんだ。
“ありがとう! 亜矢んちに行くの初めてだから、ちょっと緊張するなぁ。お母さんってどんな人?”
亜矢んちに、と呼び捨てで呼んでくれた。
“……え、お母さん? ……あぁ、普通だよ”
びっくりして、でもめちゃくちゃ嬉しくて。
呼び方を変えたことに触れることもなく、普通の話をしていたけれど、お互いニヤニヤしていて。
あの日から、このクラスで真由美を「真由美」と呼ぶのは、あたしだけ。
ずっとあたしだけだったのに。