[企]*white valentine*
スノーマンは私がお客さんと話している間、運んだコーヒーを鼻へ近付けて匂いをゆっくり嗅いだ後、口へ運んだ。
意外にも匂いまでもきちんと味わうタイプらしい。
「おー、うまい!
いっつも仕事で近くに来ても、夜遅く作業開始して夜明けとともに終了だから、ここに来る機会なくてさー。
デパートの人には怒られたけど、たまには仕事遅れて良かったかも」
スノーマンは湯気に顔を赤くしながら綻ばせ、私を見上げた。
「えー……と、何ちゃん?」
「……名前ですか?鈴木菜月ですけど……」
「菜月ちゃんね。俺はね、堺蓮(さかいれん)って言うの。よろしくね」
お客さんに自己紹介をされたのは初めてで、戸惑いながら「よろしくお願いします」と小声で言って頷くように頭を下げた。
スノーマン改め蓮さんはコーヒーをもう一口飲むと、また喋り始めた。