オフィスの甘い罠
(あの子が、“郁実”?)



状況がわからずなりゆきを
見守るあたしの前で、
社長も振り返って三浦
さんの名前を呼んだ。



すると三浦さんがもう
一人の男のコの背中を
押すようにして、二人で
歩いてくる。



最初に彼らに話しかけた
のは柊弥だった。



「よう郁実。

どうだった、面接は?」



やっぱりこの男のコが
郁実クンらしい。



柊弥の質問に、少し緊張
した様子はあるものの
郁実クンもほほ笑んで、



「とりあえず精一杯の
ことはやったよ。

後はもう、なるようになれさ」



「ハハッ、そうだな。

お前なら大丈夫だよ。

なんせオレの弟なんだからな」



「お―――……」



(――――弟っ!!?)



再び漏れそうになった声を
今度はかろうじて飲み
込んで、心の中で思い切り叫ぶ。
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