オフィスの甘い罠
別にさっきまでこんなこと
言うつもりなかったのに、
言葉がスルリと口をついて出る。



「………ん?」



首をかしげた柊弥に
あたしは続けて、



「勘違いされたくないから
言っとくけど。

別にマジでみんなに祝って
欲しいなんて思ってんじゃ
ないから。

いい稼ぎになるでしょ。
だから来てるだけ」



そう、ただそれだけ。



だからあたしが誕生日を
祝ってもらうことを期待
してるとか喜んでるとか、
そんなふうには思われたくない。




(――誕生日なんて……

あたしには別に、特別な
日じゃないんだから――…)




柊弥にそう話しながら、
自分自身でもう一度それを
確認してるみたいだった。



おかしな感覚。



何を今さら、あたしは
こんなことを考えてるんだろ?
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