オフィスの甘い罠
「柊弥…………」



幻想的な光の中で、柊弥が
『ホラ』と催促するように
一歩踏み出してさらに手を
伸ばした。



あたしはためらう。


その手をとるべきか、
とらないべきか。



だけど迷ってる時点で、
あたしはもういつもの
あたしじゃない――。




そう思ったのとほぼ
同時に、柊弥の手は強引に
あたしの右手を掴んでた。



「あ…………!」



グイッと腕が引かれて。



そうしてあたし達は、
マリア様の前で唇を重ねる。



「んっ…………!」



激しいキスに呼吸を
奪われ、閉じたまぶたの
奥で淡い光がチカチカと瞬く。



どうしてだろう――

決して自分から求めて
なんかないはずなのに、
柊弥を突き飛ばすための
力は、体のどこからも
わいてこない。
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